「チオグリコール酸アンモニウムは揮発するから縮毛矯正には使えない?」
「MEA(モノエタノールアミン)チオのほうが反応が穏やかで縮毛矯正向き?」
近年、韓国などのケミカル教育トレンドを発端に、上記のような縮毛矯正の還元剤とアルカリ剤に関する疑問や誤解が多く見られます。
ブログ読者の美容師さんから、還元剤とアルカリ剤について非常に興味深いご質問をいただきました。
【読者からのご質問】
こんにちは。今回は還元剤について質問させてください。
アンモニウムチオグリコレートに含まれるアンモニアは、すでに中和された塩の状態で存在しているため、施術中に揮発したり、どこかへ抜けていく構造ではないと私は考えています。
パーマ剤にはアンモニウムチオグリコレート以外にも、MEA などのアルカリ剤が併用されて設計されており、その組み合わせによって、同じアンモニウムチオグリコレートを使用していても、作用時間や反応の様相は異なって現れると考えています。
しかし、近年の韓国のさまざまな教育トレンドでは、「アンモニウムチオは揮発するから作用時間が短く、縮毛矯正には使えない」というような教育内容が広がっています。
一方で、「エタノールチオは反応が遅いから縮毛矯正が可能だ」といった説明も、半ば常識のように流布されています。
さらに一部では、「アンモニウムチオのアンモニウムは揮発してしまい、活性を持つチオ成分だけが毛髪に残るのではないか」という話まで聞かれます。正直なところ、どう整理して考えればよいのか分からなくなっています。
韓国の美容師さんからのリアルなご相談ですね。
日本と海外で呼び方の違いやケミカルトレンドの解釈が混ざり合い、現場で迷われている方も多いのではないでしょうか。
現場の施術で迷わないよう、原料である「チオ50」の基本構造から、揮発性と還元力(pH・解離度)の科学的な関係をわかりやすく整理して解説します!
原料「チオ50」とは?チオグリコール酸塩の仕組み
パーマ剤や縮毛矯正剤の主成分であるチオグリコール酸は、本来 pH2前後の強い酸性の液体 です。
強酸性の状態では毛髪の還元(S-S結合の切断)がほとんど進まず、原料としての安定性も低いため、アルカリ剤で中和(pH7付近)した「塩(えん)」の状態で原料化されます。
日本の化粧品・医薬部外品原料として代表的なのが、チオグリコール酸とアルカリ剤を中和させた「チオ50(チオ濃度約50%の塩溶液)」です。
- チオグリコール酸アンモニウム液(アンモニウムチオ)
チオグリコール酸 + アンモニア水で中和 - チオグリコール酸モノエタノールアミン液(MEAチオ)
チオグリコール酸 + モノエタノールアミン(MEA)で中和
※一部で「エタノールチオ」と呼ばれることがありますが、日本でエタノールチオといえば外用殺菌消毒薬(ハイポエタノール等)を指すケースが一般的です。パーマ分野では「チオグリコール酸モノエタノールアミン(MEAチオ)」を指します。
実際の縮毛矯正1剤の構成
中性付近(pH7)では十分な還元・軟化力が得られないため、製品化する際にさらにアルカリ剤(アンモニアやMEA、重曹など)を添加してpH8〜9前後のアルカリ領域に調整します。
- チオグリコール酸 + アンモニア(中和) + アンモニア(遊離アルカリ)
- チオグリコール酸 + MEA(中和) + MEA(遊離アルカリ)
- チオグリコール酸 + アンモニア(中和) + MEA(遊離アルカリ)などのハイブリッド配合
「アンモニウムチオは揮発して縮毛矯正に使えない」は本当か?
結論:科学的に誤りです。チオグリコール酸アンモニウムを使用した縮毛矯正剤でも、問題なくしっかりと還元・矯正できます。
アンモニアの揮発とチオの還元力の関係
アンモニアは揮発性アルカリであるため、施術中に特有の刺激臭を放ち、一部の遊離アンモニアが空気中に揮発します。
しかし、一般的な縮毛矯正の放置時間(15〜30c分程度)において、還元が止まるほどアンモニアが抜けきることは物理的にあり得ません。
仮に加温機を使用してアンモニアの揮発が進み、多少pHが低下傾向を示したとしても、「温度上昇による化学反応の加速」が上回るため、トータルの還元力は十分に維持・促進されます。
実際に、高難易度のくせ毛に対応するサロン用縮毛矯正1剤でも、チオグリコール酸アンモニウムをベースに設計された高スペック薬剤は数多く存在し、長年高い実績を残しています。
「MEAチオは反応が遅いから縮毛矯正に向く」の誤解
「MEA(モノエタノールアミン)チオのほうが反応速度が穏やかで安全」という言説も正確ではありません。
- 本質的な反応スピード:
チオグリコール酸自体の解離(チオラートイオン S⁻ の生成)は、主に薬剤全体のpH(水素イオン濃度)に依存します。pHとチオ濃度が同一であれば、塩がアンモニア由来かMEA由来かで反応速度そのものに劇的な差は生じません。 - 縮毛矯正剤にMEAが多用される真の理由:
アンモニア特有のツンとする刺激臭を抑える「マスキング・無臭化」が最大の目的です。サロン空間の快適性を高めるために、不揮発性アルカリであるMEAが採用されるケースが主流です。
MEA採用時の注意点(残留アルカリ)
アンモニアは揮発するため毛髪から抜けやすい一方、MEAは不揮発性のため毛髪内部に残留しやすい特性があります。
中間水洗やアシッド処理(バッファー剤)、後処理を徹底しないと、施術後の酸化不足や長期的な残留アルカリダメージの原因になるため注意が必要です。
「アンモニアが揮発して活性チオだけが毛髪に残る」は起きない
「アンモニアだけが抜けて、強力な還元活性を持ったチオ成分だけが毛髪に残留して傷む」という仮説も、還元ケミカルの原理から否定できます。
- チオグリコール酸の還元活性はアルカリで発現する
チオがS-S結合を切断できるのは、アルカリ環境下で電離して「チオラートイオン($-S^-$)」になった状態のときだけです。アンモニアが抜けて酸性側へ傾いた場合、チオは分子状態($-SH$)に戻るため、むしろ還元の活性力は急速に低下(失活)します。 - 2剤の酸化処理で中和される
残留したチオグリコール酸は、ブロム酸や過酸化水素による2剤処理(酸化工程)を行うことでジチオジグリコール酸へと酸化され、無毒化・不活性化されます。
毛髪ダメージの本質は「チオの残留」ではなく、「不揮発性アルカリ(MEA等)の残留によるpHの偏り」と「還元剤の過膨潤・軟化オーバー」にあります。
まとめ:還元剤とアルカリ剤の特性比較
| 項目 | チオグリコール酸アンモニウム | チオグリコール酸モノエタノールアミン(MEA) |
| 揮発性 | 高い(アンモニアが揮発) | なし(不揮発性) |
| 施術時の臭気 | 特有の刺激臭あり | 刺激臭が少ない(マイルド) |
| 毛髪への残留性 | 残留しにくい(揮発するため) | 残留しやすい(後処理が必須) |
| 縮毛矯正への適性 | 高い(太毛・硬毛・強いくせにも対応) | 高い(無臭設計やクリーム基剤に最適) |
| 還元反応速度 | 設定pHと濃度に準拠 | 設定pHと濃度に準拠 |
「アンモニアだから縮毛矯正ができない」「MEAだから安全・ゆっくり反応する」といった単純化された理論に惑わされず、「処方全体のpH」「チオ濃度」「アルカリ度」「アルカリ剤の残留特性」を総合的に見極めて薬剤選定を行うことが重要です。
よくある質問
Q: チオグリコール酸アンモニウムは揮発するから縮毛矯正に使えないって本当ですか?
A: いいえ、誤りです。 アンモニアは揮発性ですが、縮毛矯正の放置時間内に還元力がなくなるほど揮発することはありません。チオグリコール酸アンモニウムを主成分とした薬剤でも、クセをしっかり伸ばすことが可能です。
Q: MEAチオ(エタノールチオ)は反応が遅いから縮毛矯正に向いているのですか?
A: いいえ、反応速度はアルカリ剤の種類よりもpHと濃度に依存します。 MEAチオが使われる主な理由は「刺激臭が少ない」ためです。アンモニアチオと同一pH・濃度であれば、還元スピードに大きな差はありません。MEAは残留しやすい点に注意が必要です。
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執筆者プロフィール:森下 秀彦(どS美容師)
美容メーカーでの薬剤研究やサロン経営を経て、全国のプロの理美容師を対象にパーマ・縮毛矯正・ヘアダメージ論のセミナー講師を務める毛髪専門家。群馬大学元教授との共同研究や特許成分の実用化など、科学的根拠に基づいた革新的な薬剤・技術プロセスの開発に長年携わってきました。
⇨ [筆者のより詳しい「研究実績・専門経歴」はこちら]










コメント
ジィジ様 いつも拝見させていただき勉強させてもらってます
今回、お聞きしたいことがありましてメールさせていただきました
先日、ディーラーから◯n◯◯◯coのn◯deというシリコン除去剤を紹介してくれたのですが見たかじドSのシャンプーと変わらないのかなと思いましたが髪の中からも不純物を取り除くというみたいですがドSのシャンプーと何か違いなどありますか?
また両方を使うとよりいい効果が望めるとかありますか?
お時間ある時にでも回答していただけるとありがたいです よろしくお願いします